2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が会社の義務になります。
「大企業の話だろう」と思われがちですが、そうではありません。
従業員を1人でも雇っていれば、会社の規模に関係なく対象です。
パワハラ防止法のときにあった中小企業の猶予期間も、今回は設けられていません。
この記事では、宮崎県・鹿児島県の中小企業の経営者・店長向けに、何が義務になるのか、最低限いつまでに何をすればいいのかを整理します。
先に結論:10月1日から何が変わる?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| いつから | 2026年(令和8年)10月1日 |
| 対象 | 従業員を1人でも雇うすべての事業主 中小企業・個人事業主も猶予なし |
| 義務の内容 | 方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後対応など10項目の措置 |
| 守らないと | 措置義務そのものに直接の罰則はなし 助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名を公表 行政への報告を拒む・虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料 |
| 根拠 | 改正労働施策総合推進法(2025年6月11日公布)と国の指針 |
措置義務そのものに、罰金などの直接の罰則はありません。
ただし行政の指導に従わなければ会社名が公表される仕組みで、地元で商売をしている会社にとっては罰金より重い話かもしれません。
また、行政から報告を求められたのに報告しなかったり、虚偽の報告をしたりした場合は、20万円以下の過料の対象になります(労働施策総合推進法第41条)。
そもそもカスハラとは?3つの要素で決まる
国の指針では、次の3つをすべて満たすものをカスハラと定義しています。
- 顧客等の言動であること
- その雇用する労働者が従事する業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- それにより労働者の就業環境が害されること
電話やSNSなど、インターネット上で行われるものも含まれます。
「顧客等」はお客さんだけではありません。
取引の相手方や、施設(駅・病院・学校・公共施設など)の利用者も含まれます。
今後、商品やサービスを利用する可能性がある人も対象です。
正当なクレームとの線引き
経営者が一番迷うのがここです。
国は「社会通念上許容される範囲を超えた言動」の例を、2つの角度から示しています。
| 言動の内容が範囲を超えるもの | 手段や態様が範囲を超えるもの |
|---|---|
| ・そもそも要求に理由がない、または商品・サービスと全く関係のない要求 ・契約により想定しているサービスを著しく超える要求 ・対応が著しく困難、または対応が不可能な要求 ・不当な損害賠償請求 | ・身体的な攻撃(暴行、傷害) ・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要) ・威圧的な言動 ・継続的、執拗な言動 ・拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) |
大事なのは、商品の欠陥やサービスのミスに対する正当な申し出は、カスハラではないということです。
内容が正当でも、手段や態様が度を超えた場合にカスハラになります。
会社に義務づけられる10の措置
国の指針では、事業主が必ず講じなければならない措置が示されています。
① 方針を決めて、知らせる
- カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護するという方針を明確にし、従業員に周知・啓発する
- カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を従業員に周知する(管理監督者に指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社などと情報共有する など)
② 相談できる体制をつくる
- 相談窓口をあらかじめ定め、従業員に周知する
- 相談窓口の担当者が適切に対応できるようにする
③ 起きたときに素早く対応する
- 事実関係を迅速かつ正確に確認する
- 被害を受けた従業員への配慮の措置を行う
- 再発防止に向けた措置を講じる
④ 悪質なケースへの備えを決めておく
- 特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定めて従業員に周知し、実際に対処できる体制を整える
⑤ あわせて行うこと
- 相談者などのプライバシーを守るために必要な措置を講じ、従業員に周知する
- 相談したことなどを理由に不利益な取扱いをしない旨を定め、従業員に周知・啓発する
最低限、9月中にやっておきたい2つのこと
10項目と聞くと身構えますが、小さな会社が最初にやるべきことは2つです。
その1:方針を紙1枚で決めて、貼る
難しい文書は要りません。
次の内容を紙に書いて、休憩室や事務所に貼り、朝礼などで伝えれば形になります。
- 当社はカスハラに毅然と対応し、従業員を守ります
- 一人で抱え込まず、すぐ店長・社長に引き継いでください
- 暴力や脅迫など犯罪に当たりそうな場合は警察に通報します
その2:相談の窓口を決めて、伝える
専門部署は必要ありません。
「困ったら誰に言えばいいか」を決めて、全員に伝えることが大切です。
小さな会社なら社長本人でも構いません。
あわせて「相談しても不利益な扱いはしない」と明言してください。
ただし、この2つだけで10項目すべてを満たすわけではありません。
10月1日までに、事実関係の確認方法や被害者への配慮、再発防止といった残りの措置についても、会社の規模や実情に応じて決めておきましょう。
同じように「義務化されたが、やることは実はシンプル」という点では、職場の熱中症対策も同じ構造です(→ 【罰則あり】職場の熱中症対策は義務です)。
宮崎・鹿児島の事業者が気をつけたいこと
宮崎・鹿児島にも、顧客や取引先と直接やり取りする事業者は数多くあります。
- 小売店・スーパー
- 飲食店
- ホテル・旅館などの観光業
- 病院・介護施設
- 建設現場や工事の近隣対応
- 自治体窓口の受託業務
いずれも、お客さんとの距離が近い現場です。
そして人手不足の今、カスハラは離職の引き金になります。
「お客様は神様」という空気が残る職場ほど、従業員が黙って我慢し、ある日突然辞めていきます。
逆に言えば、対策を決めておけば、求人や面接の際に「従業員を守るルールを整えている会社」だと伝える材料にもなります。
10月は最低賃金も上がる予定です。
宮崎県は1,085円(発効予定日10月24日)、鹿児島県は1,090円(同10月25日)への引き上げが答申されています。
人件費の見直しと労務の整備をまとめて行う良い時期です(→ 宮崎県・鹿児島県の最低賃金【2026年版】)。
「クレーム全部お断り」はやりすぎです
対策を進めるときの注意点も、国は明記しています。
消費者の権利や、障害者差別解消法における「障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止」「合理的配慮の提供義務」に留意する必要がある、という点です。
障害のある方が必要な配慮を求めることは、カスハラではありません。
「クレームはすべて拒否」ではなく、「正当な要求には応じ、度を超えたものには毅然と対応する」という線引きが必要です。
同じ10月1日から、就活生へのセクハラ対策も義務に
改正男女雇用機会均等法により、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの対策も同時に義務化されます。
対象になるのは、採用面接、会社説明会、インターンシップ、教育実習・看護実習の受け入れなどです。
SNSを介したやり取りやオンライン上で行われるものも含まれます。
面談の時間や場所、やり取りに使うSNSの種類といったルールをあらかじめ決めて、従業員と求職者に周知することが求められます。
採用活動をしている会社は、こちらも同時に準備してください。
よくある質問
Q. 従業員5人の会社も対象ですか?
A. 対象です。1人でも雇っていれば規模は関係なく、中小企業の猶予期間もありません。
Q. 守らないと罰金ですか?
A. 直接の罰則はありません。ただし助言・指導・勧告の対象になり、勧告に従わない場合は会社名が公表されることがあります。
Q. 取引先からの理不尽な要求も対象ですか?
A. 対象になり得ます。「顧客等」には取引の相手方も含まれます。
Q. 自社の従業員が取引先の人にカスハラをしてしまった場合は?
A. 取引先から事実確認などの協力を求められたら、応じるよう努める必要があります(努力義務)。
Q. 何から手をつければいいですか?
A. 方針を書いた紙と、相談窓口を決めることの2つからで大丈夫です。
まとめ:10月1日までのチェックリスト
- カスハラに毅然と対応し、従業員を守る方針を決めて周知した
- カスハラの内容と、起きたときの対処方法を決めて周知した
- 相談窓口を決めて、全員に伝えた
- 相談窓口の担当者が対応できるようにした
- 事実関係を迅速かつ正確に確認する方法を決めた
- 被害を受けた従業員への配慮の方法を決めた
- 再発防止の方法を決めた
- 一人で対応させない・管理者に引き継ぐ・警察へ通報する基準を決めた
- 特に悪質なケースへの対処方針を決めて、対処できる体制を整えた
- 相談者のプライバシーを守る方法を決めて周知した
- 相談したことを理由に不利益な取扱いをしないと定めて周知した
- 採用活動がある場合は、求職者等へのセクハラ防止ルールも決めた
パワハラ対策とあわせて整理しておくと、社内のルールが一度にすっきりします。
詳しい内容は、厚生労働省のリーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」で確認できます。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとに、制度の概要をわかりやすく解説したものです。
個別の事案の判断については、社会保険労務士・弁護士または都道府県労働局にご確認ください。
