この記事でわかること
- 役員報酬と役員賞与の違い・損金算入の要件
- 「事前確定届出給与」の正しい手続きとスケジュール
- 月額報酬を抑えて役員賞与で調整する仕組みと上限額(2026年4月時点)
- 年収1,000万円の場合の具体的な手取りシミュレーション(協会けんぽ宮崎支部の令和8年度料率で試算)
- 2026年以降に予想される法改正リスクと、今から備えるべき代替策
1. 役員報酬は「経費」にできる – ただし役員賞与は別ルール
法人経営において、役員に支払う報酬は 損金(経費) として計上でき、法人税の負担を抑える節税手段として有効です。
ただし、役員賞与(ボーナス) は従業員の賞与とは異なり、原則として損金算入が認められていません。
そのまま支給すると法人税の経費にならず、会社の税負担が重くなる という落とし穴があります。
これを回避するために用意されているのが 「事前確定届出給与」 という仕組みです。
※届け出なしに支給すると、賞与分は経費にならず、法人税の負担が増えるため注意が必要です。
2. 役員賞与を経費にする「事前確定届出給与」の手続き
届出期限
役員賞与を損金算入するには、あらかじめ税務署に金額と支給時期を届け出る 必要があります。
届出期限は以下のいずれか早い日です。
| 届出期限 | 内容 |
|---|---|
| ① 株主総会等で事前確定届出給与を決議した日から1ヶ月以内 | 決議日が職務執行開始日より後の場合は、職務執行開始日から1ヶ月以内 |
| ② 会計期間開始の日から4ヶ月以内 | 3月決算の会社なら、7月末が届出期限 |
届出通りに支給することが必須
届出で確定した 金額・支給日の両方を1円単位・1日単位で正確に守る 必要があります。
届出金額より多く支給しても少なく支給しても、さらに支給日が1日でもずれても、賞与全額が損金不算入(=経費にならない)となります。
実務では最もミスが多い箇所なので要注意です。
届け出をしないとどうなる?
届出なしで支給した場合、その賞与は法人税計算上 経費として認められず、会社が負担する法人税が増えます。
これは単に「控除が受けられない」という話ではなく、キャッシュで支払った賞与が税務上は存在しないものとして扱われるため、実質的な税負担の二重化 が発生します。
賞与の社会保険料(健康保険・厚生年金)には上限があり、それ以上は社会保険料は増えません。
具体的には健康保険は年間573万円、厚生年金は月間150万円です。
つまり毎月の役員報酬を低く設定し、役員賞与を多くすることで社会保険料を抑えることができます。
3. 社会保険料を抑える仕組み – 「上限額」の活用
標準賞与額には上限がある(2026年4月現在)
役員賞与にかかる社会保険料には、以下の 上限 が設けられています。
| 保険の種類 | 上限額 | 計算単位 |
|---|---|---|
| 健康保険・介護保険 | 年間 573万円 | 毎年4月1日〜翌年3月31日の累計 |
| 厚生年金保険 | 150万円 | 1回の支給ごと |
| 子ども・子育て支援金 | 健康保険の上限に準拠 | 年間累計 |
つまり、この上限を超える部分には社会保険料がかからない 仕組みです。
これを踏まえると、月額報酬を低く抑え、役員賞与を上限を超える水準にすることで、年収総額は同じでも社会保険料を大きく圧縮できる という戦略が成り立ちます。
これが多くの中小企業オーナーに活用されてきた「役員報酬と役員賞与を使った社保圧縮スキーム」です。
2026年4月の保険料率改定にも注意
2026年3月分(4月納付分)から、協会けんぽの保険料率が改定されています。
- 健康保険料率(全国平均):10.0% → 9.9%(34年ぶりの引下げ)
- 介護保険料率:1.59% → 1.62%
- 子ども・子育て支援金:0.23%を新設徴収開始(2026年4月分/5月納付分から)
協会けんぽ宮崎支部・鹿児島支部も引下げ対象40都道府県に含まれます(据置きは青森・秋田・山形・栃木・神奈川・島根・沖縄の7県のみ)。
正確な県別料率は協会けんぽの公式ページで都度ご確認ください。
宮崎県・鹿児島県の方は下記の記事をご参照ください。
宮崎・鹿児島の社会保険料額表|健康保険・厚生年金一覧
4. 具体例:年間役員報酬1,000万円の手取りシミュレーション
同じ年収1,000万円でも、月額と賞与の配分で社会保険料は大きく変わります。
以下は令和8年度(2026年度)の料率ベースで試算した概算です。
| 項目 | パターンA(標準的) | パターンB(社保圧縮型) |
|---|---|---|
| 毎月報酬の年間合計 | 720万円(月額報酬60万円) | 120万円(月額報酬10万円) |
| 役員賞与(年1回) | 280万円 | 880万円 |
| 年間総支給額 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 社会保険料(個人負担分・概算) | 約138万円 | 約65万円 |
| 所得税(概算) | 約81万円 | 約96万円 |
| 住民税(概算) | 約63万円 | 約70万円 |
| 手取り(概算) | 約718万円 | 約769万円 |
差額:パターンB のほうが年間 約+51万円 の手取り増
※ 上記は協会けんぽ宮崎支部の令和8年度料率・介護保険第2号被保険者・扶養なし・基礎控除等の標準的な控除のみを前提とした概算値です。
実際の金額は個別の状況により異なります。
※ 会社負担の社会保険料(法定福利費)も同様に圧縮されるため、法人側でもほぼ同額の削減効果 が生じます。
なぜパターンBだと社保が減るのか
パターンBでは賞与1回に880万円を支給しますが、
- 厚生年金:1回の支給につき150万円までしか社会保険料がかからない → 730万円分は保険料ゼロ
- 健康保険・介護保険:年間累計573万円までしかかからない → 超過307万円分は保険料ゼロ
月額報酬も10万円と低いため、月次の保険料も最小限に抑えられます。
5. 【重要】このスキームには「制度見直し」のリスクがある
冒頭でも触れた通り、本スキームは 厚生労働省で見直しの議論が進行しており、近い将来に使えなくなる可能性 があります。
主な論点は以下の通りです。
① 標準賞与額の上限引上げ
現行の年間573万円という上限について、民間企業の平均賞与を踏まえ 年間624万円程度に引き上げる試算 が厚労省から示されています。
② 月額報酬と賞与の合算判定
月額報酬を極端に低く設定したケースについて、賞与分を月額に按分して社会保険料を再計算するルール が導入される可能性があります。
これが実現すると、本スキームの節約効果は大幅に縮小します。
③ 標準報酬月額の上限引上げ
2027年9月から、厚生年金の標準報酬月額の上限引上げが予定されています。
月額報酬が高い役員への影響が先行します。
④ 「適正な労働対価」要件の厳格化
形式的に月額報酬を下げているだけで、実態として役員業務を行っている場合は、年金事務所から「賞与分を月額報酬に合算して保険料を算定すべき」との指導が入る可能性があります。
厚生労働省も2024年の社会保障審議会で、このような運用を問題視する見解を示しています。
経営者が今やるべきこと
- スキームの「ライフサイクル」を意識する – 今年は使えても来年は使えない可能性がある前提で、単年度のキャッシュフロー計画に組み込むのは避ける。
- 税理士・社労士と年1回の設計見直し – 決算期ごとに法改正の動向をチェックし、役員報酬の設計を更新する。
- 将来の年金・傷病手当金への影響も考慮 – 月額報酬を下げると、老齢厚生年金・傷病手当金・出産手当金などの将来給付額も下がります。短期の節約と長期の保障を天秤にかける視点が必須です。
- 代替的な節税手段の併用 – 小規模企業共済、企業型確定拠出年金(iDeCo+/企業型DC)、経営セーフティ共済、役員退職金の計画的積立など、より安定した節税策と組み合わせる。
6. まとめ:上手な活用ポイント
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 事前届出 | 役員賞与は税務署に事前届出を提出することで損金算入が可能に。 1円・1日でもズレたら全額否認される厳格さに注意。 |
| 上限の活用 | 健康保険は年間573万円、厚生年金は1回150万円が上限。 月額報酬を抑えて賞与に寄せると社会保険料を圧縮できる(2026年4月時点)。 |
| 節税効果 | 賞与も損金算入になるため、法人税の節税効果が期待できる。 さらに社会保険料の会社負担分も減る。 |
| 法改正リスク | 厚労省で見直しが進行中。 数年以内に使えなくなる前提で、短期的な節約策として限定活用を推奨。 |
| 将来給付への影響 | 月額報酬を下げると老齢厚生年金・傷病手当金が減る。 長期的な保障設計とセットで検討。 |
📌 実施前に確認したい注意点
- 事前確定届出給与は 厳密なスケジュール管理 が必要です。
1日・1円の誤差でも損金不算入となるため、税理士関与の下で実施することを強く推奨します。 - 社会保険料の算定基準・税制・保険料率は 毎年変更される可能性 があります。
本記事は2026年4月時点の情報です。 - 宮崎県・鹿児島県の事業主の方は、協会けんぽ宮崎支部・鹿児島支部の最新料率表 で都度確認してください。
- 本スキームは、役員本人の同意だけでなく 株主総会・取締役会の正式な決議議事録 が必須です。
同族会社の場合でも手続きを省略せず、書類を残しましょう。
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出典・参考情報
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」
- 厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会(第183回/令和6年9月30日)資料
- 国税庁「事前確定届出給与に関する届出」
- 厚生労働省「2027年9月開始 厚生年金 標準報酬月額の上限引上げ」
