役員報酬は会社と役員双方にとって大きなコスト要因です。
適切な設計を行うことで、社会保険料や所得税を削減する余地があります。
本記事では、実務で活用できる代表的な方法を整理します。
1. 社会保険料を抑える方法
① 随時改定(報酬月額の変更届)の活用
- 報酬が大きく変動した場合、3か月平均を基に2等級以上の差があれば標準報酬月額を変更可能です。
- 通常の定時決定(7月の算定基礎届)を待たずに、早期に社会保険料を下げられます。
- 実務ポイント:
- 報酬を下げる場合は「2等級以上」下げることで随時改定が可能。
- 報酬を上げる場合は「1等級以内」に抑えることで、社会保険料の負担増を最小化できます。
② 等級の上限を意識する
- 標準報酬月額には上限(厚生年金は令和7年現在、65万円等級が上限)があります。
- それ以上の報酬を設定しても社会保険料は増えないため、役員報酬設計の一つの目安になります。
③ 賞与を活用する
- 賞与も標準賞与額として社会保険料の対象ですが、
年4回以内の支給であれば「月額報酬」とは切り分け可能です。 - 毎月の報酬を抑え、必要に応じて賞与で調整する設計も検討できます。
2. 所得税・住民税を抑える方法
① 通勤手当(車通勤の場合も含む)の非課税活用
- 通勤手当は一定額まで所得税・住民税が非課税です。
- 公共交通機関:1か月15万円まで非課税
- 自家用車通勤:距離に応じて月額3万1,600円(片道55km以上)まで
- ただし、社会保険料の算定基礎には含まれるため、保険料削減効果はありません。
- 👉 「所得税対策には有効、社会保険料対策にはならない」と理解しておくことが大切です。
② 役員報酬の分散(家族役員の活用)
- 同一世帯で働いている家族を役員にし、業務実態に応じた報酬を分散させることで、
累進課税の負担を抑えることが可能です。 - 税務署から「形式的な役員」と判断されないよう、職務分担や議事録の整備が必要です。
3. 実務上の注意点
- 社会保険料の削減策は「短期的な下げ」ばかりを狙うと将来の年金・給付額も下がるため、長期視点も必要。
- 所得税の削減は「非課税規定の活用」が基本。通勤手当や出張旅費、社宅などを適切に使うと効果的。
- 制度を誤解して使うと税務調査や年金事務所の調査で指摘されるリスクがあるため、
専門家に確認しながら設計するのが望ましい。
まとめ
- 社会保険料の削減
- 随時改定で「2等級以上の減額」を使う
- 報酬アップは「1等級以内」で抑制
- 等級の上限と賞与の分け方を活用
- 所得税の削減
- 通勤手当(車通勤含む)など非課税制度をフル活用
- 家族役員への報酬分散で累進課税を緩和
👉 社会保険と所得税は似て非なる制度なので、
「両者で効果の出る方法」と「片方だけに有効な方法」を整理しておくことが重要です。