AIを業務に活用する企業が増えていますが、同時に「顧客データを入力していいのか?」
「ChatGPTやCopilotなら安全なのか?」という不安の声も急増しています。
結論から言うと、
顧客に無断でAIへデータを入力するのは基本NG。
そして、ツールによって「安全性のレベル」が大きく異なります。
この記事では、AIツールごとの違い、法的リスク、
そして安全に使うための実務的な指針まで専門的に解説します。
1. なぜ今「AIと顧客データ」が問題になるのか?
ChatGPT や Gemini などのAIが爆発的に普及し、
文章作成や分析をAIに任せる企業が急増しています。
一方で、
- 顧客情報をそのまま入力してよいのか?
- 契約違反にならないのか?
- データは学習利用されるのか?
といった「コンプライアンス上の不安」が残ったまま曖昧に使っているケースが多いのが現状です。
2. 結論:顧客に無断でAIにデータ入力するのは基本NG
多くのAIサービスは「第三者」に該当するため、
- 個人情報保護法
- 秘密保持契約(NDA)
- 社内セキュリティ規程
これらに抵触するケースがあります。
つまり、
「ツールが安全かどうか」以前に
顧客情報を他社サービスに預けること自体が問題になる可能性があるということです。
3. 何が問題になるのか?法律・契約・社内規程から解説
■ 3-1. 個人情報保護法(第三者提供・委託の問題)
外部のAIサービスに顧客データを入力する行為は
法的には「第三者提供」や「委託」に該当します。
そのため、
- 本人への通知・同意
- 利用目的の明確化
が必要になる場合があります。
特に、無料版ChatGPTや不明瞭なAIに情報を入力すると
個人情報保護法上の違反リスクがあります。
■ 3-2. NDA(秘密保持契約)違反のリスク
顧客との契約書には、多くの場合
「第三者へ情報を開示してはならない」
と明記されています。
AIサービスは“第三者”なので、
無断で入力すれば契約違反になる可能性が高いです。
■ 3-3. 社内規程との矛盾
企業によっては以下のような規程があります:
- 「外部クラウドに機密情報を入力禁止」
- 「無料AIツールの禁止」
- 「AI利用は情報システム部の許可が必要」
これに反すると、社内コンプラ問題にも発展します。
4. ChatGPT・Gemini・Copilotの安全性の違い
ツールごとに “安全性” は全く違います。
以下に分かりやすくまとめます。
■ 4-1. ChatGPT(無料版)
- 入力データが学習利用される可能性あり
- セキュリティ保証が弱い
- 業務データ入力は完全にNG
最も危険な選択肢です。
■ 4-2. ChatGPT Team / Enterprise(有料版)
- データは学習に使われない
- 通信も暗号化
- SOC2などのセキュリティ基準に準拠
ただし、顧客データの無断入力はNDA的にNG。
■ 4-3. Google Gemini(無料版)
- 無料版はデータ利用・ログ保持があり不向き
業務で顧客データを入れるのは避けるべき。
■ 4-4. Google Gemini Enterprise(Workspace版)
- データ利用なし
- 組織専用環境で処理
比較的安全。
■ 4-5. Microsoft Copilot for Microsoft 365(最も安全)
特にビジネス利用では Copilotが頭一つ抜けて安全 です。
- データはMicrosoftクラウド内に留まる
- AIモデルはユーザーのデータを学習しない
- Microsoft 365の権限管理の範囲内で処理
- コンプライアンス基準が最も厳格
ただし、
顧客とのNDAや個人情報保護法が免除されるわけではない点に注意。
5. Copilotは安全?仕組みを簡単に説明
Copilot for 365 は、
- Word / Excel / Outlook / Teams など
同じテナント内のデータだけを参照 - データは外部に流出しない
- AIモデルはユーザーごとの情報を保持しない
という仕組みで動いています。
つまり、
社内だけで完結する情報なら非常に安全に使えるツールです。
6. 何を入力してよい?何を入力してはダメ?(線引き)
以下の情報は一般的にAIツールへ入力しても大きな問題になりにくいですが、
“絶対に安全”というわけではありません。
状況・内容・設定によってはリスクが発生します。
① 社内資料
● 基本的にはOKなケース
- 社外秘ではない
- 顧客情報や個人情報が含まれない
- 組織のルールでAI利用が許可されている
● 問題になりうるケース
- 取引先名・金額・プロジェクト名が記載されている
- 内部のノウハウ・技術情報が競争優位に直結している
- 社内規程で「生成AIへの入力は禁止」とされている
➡ ポイント:社内資料=安全ではない。内容によっては情報漏洩と判断される。
② 自分の作業データ
(例:Excelの整理、文章の改善、業務メモ)
● OKなケース
- 他者の個人情報や顧客情報を含まない
- 外部に漏れて困らない内容
● 危険なケース
- 作業ログに取引先名・顧客名などが入っている
- メール文面に個人名・会社名が含まれたまま
- 業務ツールの画面キャプチャに機密が写り込んでいる
➡ 自分の作業データでも、実は他者の情報が混ざっていることが多いので注意。
③ マニュアル作成・議事録作成
● OKなケース
- 公開前提の一般マニュアル
- 社員向けだが機密性の低い内容(例:社内のルール説明)
● 危険なケース
- 議事録に顧客の名前・金額・計画が記載されている
- 社内プロジェクトの戦略が含まれる
- 人事関連(評価、給与、面談記録など)が含まれている
➡ 議事録は特に“つい入力したくなる”が、実は最も危険。
④ 匿名加工したデータ
● OKなケース
- IDを乱数化する
- 個人を特定できる記述をすべて削除
- 統計データ・傾向分析用に調整済み
● 危険なケース
- 「名前だけ隠した」だけのデータ
- 特定の会社・部署がわかる
- ケース数が少なく再識別されやすい
- AI側で他の情報と組み合わせ再特定される可能性
➡ 匿名加工は思っているより難しい。部分的に残っている情報から再特定できることも。
⑤ 機密性の低い一般情報
● OKなケース
- 公開資料
- すでにネットにある情報
- 業界の一般的な情報
● 危険なケース
- 「一般情報」だと思っているが未公開の内部情報だった
- 顧客の属性・個数などの“半機密”データ
- 企業規模や売上などが社内資料を元にしている
- 数字を少し変えても元データが推測できる
➡ “機密ではないつもり”で入力する情報が、一番事故につながりやすい。
■ まとめ:入力OKの情報でも「絶対安全」ではない理由
生成AIは以下の点でリスクが発生します:
- 入力内容が内部で学習されない設定でも、法的には情報提供した扱いになることがある
- 入力ログが運営側に残る場合がある
- 誤操作でクラウド共有される可能性もある
- 規制(個情法/GDPR)の解釈が企業によって異なる
最終的には「入力する内容そのもののリスク評価」が必須。
■ 入力NG(同意なしでは危険)
- 氏名・住所などの個人情報
- 顧客の売上・契約内容
- 特殊なNDA案件
- 医療・健康データ
- 金融資産・収入情報
- 官公庁案件など厳格な情報
7. 安全にAIを使うための実務ガイドライン
✔ 7-1. 匿名化できる情報は必ず匿名化
具体的には、
- 姓名 → A社担当者
- 住所 → 地域情報
- 契約金額 → ○万円規模
などの加工を行う。
✔ 7-2. 顧客への明示・同意を取る
後述のテンプレ文を使用。
✔ 7-3. 安全なAI(Copilot / Azure OpenAI)を優先
無料AIへの入力は禁止すべき。
✔ 7-4. 社内の情報システム部門と運用ルールを統一
実効性のあるルールを作る。
8. 顧客に同意を取るための文面テンプレ
当社では業務効率化のため、Microsoft Copilotなどの
企業向け生成AIツールを業務支援に使用しています。
これらのツールは、入力された情報が学習データとして
外部に利用されることはありません(Microsoft公式)。
ご提供いただく情報については、
AIに入力する際には必要最小限の範囲に限定し、
匿名化や加工を行った上で取り扱います。
AI利用に関してご不安な点や、
利用を希望されない場合はお知らせください。
9. 企業向け:AI利用規程(簡易サンプル)
- 無料のAIサービスへ機密情報入力を禁止
- 顧客データの入力は原則禁止
- 必要な場合は本人同意を得る
- 業務で利用できるAIツールを明示(例:Copilotのみ)
- 匿名化を必ず行う
- 情報漏えい発生時の報告ルール
10. まとめ:AIは“安全に使えば”強力なツールになる
AIは危険なものではなく、
適切なツールを選び、適切な範囲で使えば非常に有用です。
特に Microsoft Copilot for 365 のような
ビジネス向けの安全な環境で使うことで、
コンプライアンスに配慮しつつ大幅な効率化が可能になります。
ただし、
顧客データを無断で入力する行為だけは、
どのAIでも問題になる点を忘れてはいけません。
むしろこの部分をクリアすれば、
AIはあなたの業務を大きく変えてくれるはずです。
■ 免責事項
本記事の内容は、公開情報および一般的なリスク解説に基づき執筆したものであり、
特定のツールやサービスの安全性・合法性を保証するものではありません。
また、生成AIサービスの仕様やプライバシーポリシーは随時変更される可能性があります。
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