はじめに
社員による飲酒運転は、企業の信用を大きく損なう重大な行為です。
たとえ業務外の事故であっても、SNSや報道で会社名が広まれば、
取引先からの信頼低下や採用への影響も避けられません。
本記事では、飲酒運転が発覚した際に会社が取るべき対応手順を法的リスクを踏まえて解説します。
1. まず行うべき初動対応
① 事実関係の確認
警察や本人、目撃者などからの情報をもとに事実確認を最優先で行います。
- いつ・どこで・どのような状況で発覚したか
- 私用車か社用車か
- 業務中か、出退勤中か
👉 感情的にならず、「事実」と「推測」を分けて確認することが重要です。
② 社内での報告体制を整える
経営者や役員、労務担当者へ速やかに報告します。
万が一報道などで外部に広まる場合に備えて、対応方針を一本化しておきましょう。
2. 飲酒運転の状況別に見る会社の責任
① 社用車での飲酒運転(業務中・業務後)
→ 会社にも使用者責任(民法715条)が発生します。
事故が起きた場合、被害者への賠償義務を会社が負う可能性があります。
また、企業としての管理責任も問われるため、
- アルコールチェックの実施
- 運転者名簿・運転日報の管理
- 安全運転教育の実施
が義務づけられています(道路交通法施行規則第9条の10)。
② 私有車での飲酒運転(通勤中など)
→ 原則として会社の法的責任は発生しません。
ただし、
- 通勤経路上の事故で労災が発生した場合
- 会社が黙認・容認していた場合
には、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
3. 会社が取るべき処分・対応
① 就業規則に基づく懲戒処分
飲酒運転は懲戒解雇や出勤停止の対象となり得ます。
ただし、処分を行う際は以下の手順を踏むことが重要です。
- 本人への事情聴取
- 弁明の機会を与える
- 懲戒委員会や上層部で処分内容を協議
- 書面で処分を通知
👉 就業規則に「飲酒運転を懲戒解雇の対象とする」旨を明記しておくことで、
後のトラブル防止になります。
② 会社としての対外対応
報道・SNSなどで情報が拡散する前に、
- 事実確認中である旨の社内通達
- 社外には必要最低限の情報のみ公表
を徹底します。
誤った情報発信は二次被害を招くため、慎重に対応します。
4. 再発防止策の徹底
① アルコールチェックの義務化(2023年以降の法改正)
白ナンバー車(自家用車)を業務用途で使用しており、
かつ一定規模の車両を保有する事業所では、以下のような義務が課されています。
対象となるのは「運送業だけ」ではありません。
- 対象基準:
1つの事業所(自動車使用の本拠)において、
普通車など「その他の自動車」を5台以上、または乗車定員11人以上の自動車を
1台以上使用している場合。 - 義務内容:
運転前後の酒気帯びの確認・その記録の作成・記録の保存(最低1年)などが
「安全運転管理者」の業務内容に含まれており、制度の中で義務化されています。 - 実務上の留意点:
- 通勤目的だけで使用するマイカーは対象台数に含まれないケースがあります。
- 台数要件は「事業所ごと(使用の本拠ごと)」で判断されるため、
複数拠点を持つ会社では拠点別にチェックが必要です。
② 社内教育・誓約書の活用
- 年1回の安全運転教育(eラーニングやミーティング)
- 運転者誓約書(飲酒運転をしない旨の誓約)を提出
- 罰則や懲戒規定を再確認
再発防止策を「書面で」「継続的に」行うことで、企業の管理責任を果たした証拠になります。
5. まとめ:経営者の意識が会社を守る
社員の飲酒運転は、個人の問題にとどまらず企業全体の信用問題です。
経営者が率先して「絶対に飲酒運転を許さない」姿勢を示すことが、最大の抑止力となります。
再発防止教育・アルコールチェック・誓約書管理を徹底し、
「安全・信頼のある企業文化」を築きましょう。