はじめに:防犯目的が「監視」と受け取られるリスク
最近では、不正防止や安全管理のために社内に防犯カメラを設置する企業が増えています。
しかし、経営者が「防犯目的だから問題ない」と安易に設置すると、
従業員が監視されていると感じて不信感を抱くケースも少なくありません。
実際、説明なしでカメラを設置したことで、
「信頼されていない」「プライバシー侵害だ」と社内トラブルに発展する例もあります。
本記事では、防犯カメラ映像の取り扱いに関する法的注意点と、
経営者が押さえるべき運用ルールをわかりやすく解説します。
1. 社内防犯カメラの設置が増える背景
- 現金・商品・機材の盗難防止
- ハラスメント・不正行為の証拠保全
- 来訪者や外部業者の安全管理
といった理由から、多くの企業が社内防犯カメラを導入しています。
一方で、設置や映像の扱い方を誤ると、従業員のプライバシー侵害や労務トラブルに
つながるリスクがあります。
2. 法的に注意すべきポイント
(1)映像は「個人情報」に該当する
人物が特定できる映像は、個人情報保護法の対象になります。
そのため、取得・保存・利用には「目的の明確化」と「適正管理」が求められます。
(2)設置目的を明示する
「防犯」「事故防止」「不正防止」など、設置目的を明確にし、
従業員や来訪者にわかる形で掲示する(例:『防犯カメラ作動中』など)ことが望まれます。
(3)従業員への説明と同意が必要
社内監視を目的とするような設置は、労働契約上の信頼関係を損なうおそれがあります。
防犯目的であっても、
- 設置場所
- 目的
- 保存期間
- 閲覧権限
などを事前に説明し、就業規則や社内規程に明記することが重要です。
(4)撮影してはいけない場所
以下のような「私的空間」への設置は、明確に違法・不当行為とされます。
- トイレ
- 更衣室
- 休憩室やロッカールーム など
3. 映像データの取り扱いと注意点
(1)保存期間は必要最小限に
防犯目的なら、30日程度を目安に自動上書きする設定が一般的です。
長期間保存する場合は、理由を明記しておきましょう。
(2)閲覧権限を限定する
映像の閲覧・コピー・削除は、管理責任者を限定し、
不正利用を防止する体制を整えておく必要があります。
(3)目的外利用はNG
映像をSNSや社内報などに流用するのは、個人情報保護法違反の可能性があります。
また、警察への提供も「事件・事故など正当な理由」がある場合に限られます。
4. 経営者がやりがちなNG行為
| NG行為 | 想定される問題 |
|---|---|
| 「従業員を監視」する目的で設置 | モラル・パワハラ問題、労使関係の悪化 |
| 音声まで録音している | 盗聴・プライバシー侵害の可能性 |
| 管理者が個人的に映像を閲覧 | 個人情報の不正利用・内部流出リスク |
経営者としては「会社を守るため」と思っていても、
社員から見れば「信用されていない」「常に監視されている」と感じられることがあります。
5. 適正運用のためのチェックリスト
- □ 設置目的を明確にし、社員に説明している
- □ 撮影範囲が必要最小限である
- □ 保存期間・管理責任者を定めている
- □ 就業規則または社内規程に記載している
- □ 定期的に運用を見直している
- □ 専門家(弁護士・社労士)に確認している
このようなルールを整備しておけば、防犯目的と従業員の安心感を両立できます。
6. まとめ:信頼を守る「透明性のある運用」を
防犯カメラは、使い方を誤ると「防犯」ではなく「監視」になってしまいます。
経営者としては、不正防止・安全確保のための合理的判断かもしれません。
しかし、説明不足や管理の不備があると、従業員の信頼を失うリスクもあります。
カメラの設置そのものよりも、
**「どう説明し、どう運用するか」**が信頼経営のカギです。
【記事末注】
※本記事は一般的な情報に基づいており、具体的な法的判断は弁護士や社会保険労務士などの
専門家へご相談ください。