役員報酬は、法人税の計算や金融機関の評価に直結する重要な要素です。
しかし、決め方を誤ると「損金算入できない」「税務調査で否認される」といったリスクが生じます。
本記事では、役員報酬の決め方・損金算入のルール・税務リスク・実務上のポイントを徹底解説します。
1. 役員報酬の基本ルール
(1) 損金算入できるのは「定期同額給与」などに限定
法人税法では、役員報酬を損金算入できるのは次の3つの場合に限られます。
- 定期同額給与
毎月同じ金額で支給される報酬。もっとも一般的。 - 事前確定届出給与
事前に支給時期・金額を税務署へ届け出たボーナス。 - 利益連動給与(上場企業など限定)
業績に応じて支給される報酬。ただし適用要件が厳しい。
これ以外の支給は、原則として損金算入できません。
2. 損金算入の要件と注意点
(1) 決定時期
役員報酬は、株主総会で決議された内容に基づく必要があります。
決算期開始から3か月以内に確定したものであれば損金算入できますが、それ以降に変更すると否認されるリスクがあります。
具体例(3月決算の場合)
- 会社の事業年度:4月1日~翌年3月31日
- 報酬決定の期限:6月30日まで
- この期間内に株主総会で報酬額を決定すれば損金算入可能。
- 7月以降に報酬を改定した場合、その増額分は損金算入できません。
(2) 定期同額であること
役員報酬は、原則として「毎月同額」でなければ損金算入できません。
ただし、次のような例外があります。
- 業績悪化改定事由
会社の業績が著しく悪化した場合に限り、減額改定が認められる。 - 職制上の地位変更改定事由
役員の職務内容や地位が変更された場合に、報酬の改定が可能。 - やむを得ない事情による改定
災害や不可抗力的な事情がある場合、例外的に変更が認められる。
3. 税務リスク
役員報酬の決定でよくあるリスクは以下のとおりです。
- 損金算入の否認
定期同額の原則を守らずに増減させると、増額分・減額分が損金不算入となる。 - 過大役員報酬の否認
同業他社と比べて著しく高額な報酬は「適正額」を超える部分が損金不算入となる。 - 税務調査での指摘
「形式的な決議のみ」「実際と異なる支給実態」などは調査で問題視されやすい。
👉 参考:国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
4. 金融機関の評価との関係
役員報酬は金融機関の融資審査にも影響します。
- 報酬が低すぎる
個人の生活基盤が弱く見られ、経営安定性に疑問を持たれる。 - 報酬が高すぎる
会社の資金繰りを圧迫していると評価され、返済能力に疑念を持たれる。
適正な水準に設定することは、金融機関からの信用確保にも直結します。
5. 実務上のポイント
- 決算後3か月以内に金額を確定する
- 原則として毎月同額で支給する(例外事由を除く)
- 同業他社と比較して極端な金額にしない
- 議事録を整備して形式面を押さえる
- 資金繰りを考慮して会社・個人の双方が無理のない額に設定する
まとめ
役員報酬は、
- 損金算入できるかどうか
- 税務調査で否認されないか
- 金融機関の評価にどう影響するか
といった複数の視点で決める必要があります。
正しく設定することで法人税を適正に抑えつつ、会社の信用力を高めることができます。
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