■ はじめに:事業の失敗は「終わり」ではない
事業がうまくいかなくなるのは決して珍しいことではありません。
景気変動、資金繰り悪化、取引先倒産、コロナ禍など原因はさまざまです。
重要なのは「失敗したあとに、どう動くか」。
事業が傾いたとき、感情的になって行動すると被害が拡大します。
まずは冷静に状況を整理し、利害関係者への対応・法的整理・再スタートの準備を進めましょう。
■ 1. 利害関係者への誠実な対応
● 従業員への未払い給与
最優先で対応すべきは「人」です。
給与未払いがある場合、まず従業員へ説明と支払い計画を提示します。
一時的に支払えない場合でも、労働基準監督署への相談で「未払い立替制度」などを
案内してもらえることもあります。
● 取引先への支払い(未払金)
支払いが難しい場合も、逃げずに現状を説明しましょう。
誠実な対応を取ることで、分割払いの合意を得られる場合もあります。
音信不通になると債権回収・訴訟に発展することもあり、再起に大きな障害になります。
● 銀行・金融機関への借入金
返済が難しい場合は、早めに銀行や信用保証協会に相談を。
リスケジュール(返済猶予)や条件変更に応じてもらえることもあります。
放置して延滞を続けるよりも、自ら交渉した方が信用が残ります。
■ 2. 任意整理と自己破産の判断基準
事業が完全に行き詰まった場合、債務整理を検討することになります。
代表的なのが「任意整理」と「自己破産」です。
| 区分 | 任意整理 | 自己破産 |
|---|---|---|
| 手続き | 債権者と個別交渉 | 裁判所を通じて手続き |
| メリット | 一部の債務だけ整理可能/財産を守れる | 借金が全額免除される可能性 |
| デメリット | 全債権者が応じるとは限らない | 財産処分・信用情報に傷 |
| 向いている人 | 一部返済可能な場合 | 返済見込みが全くない場合 |
いずれの手続きも、弁護士に早期相談することが最善です。
初回相談は無料の事務所も多く、今後の生活設計も含めてアドバイスを受けられます。
■ 3. 廃業・倒産後の再スタートに向けた準備
● 小規模企業共済の活用(差し押さえ禁止)
小規模企業共済は、個人事業主・会社役員などが加入できる「退職金制度」です。
最大の特徴は、共済金が差し押さえ禁止財産とされている点。
つまり、万が一の倒産・破産の際にも、共済金を生活資金として確保できます。
関連記事:小規模企業共済とは?節税と退職金準備を両立できる制度を解説
※注意:廃業後に加入することはできないため、事業継続中に加入しておくことが重要です。
● 再チャレンジ支援制度
国や自治体では、過去に廃業経験のある経営者を支援する制度があります。
- 日本政策金融公庫の「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」
- 商工会議所の創業・再起支援窓口
「一度失敗した経営者」を応援する風潮が広がっており、
再起を支える環境は整いつつあります。
■ 4. 再出発に向けた事業戦略の見直し
再スタートを切るときは、過去の失敗を分析し「小さく始めて大きく育てる」戦略が有効です。
- 固定費をできる限り軽くする
- 借入を最小限に抑える
- キャッシュフローを最重視する
- デジタルツール・クラウド会計を活用する
また、過去の事業で得た「実務経験」「顧客との関係」「市場理解」は、
次の成功の強力な武器になります。
■ 5. 相談すべき専門家と支援機関
| 種別 | 相談内容 | 窓口例 |
|---|---|---|
| 弁護士 | 債務整理・破産手続 | 法テラス、弁護士会、法律事務所 |
| 税理士 | 廃業手続・債権債務整理 | 地元税理士会、顧問税理士 |
| 商工会・商工会議所 | 再チャレンジ支援・補助金 | 各地域の商工会議所 |
| 日本政策金融公庫 | 再起支援融資・創業支援 | 中小企業向け融資窓口 |
■ まとめ:失敗しても、立ち上がる力は誰にでもある
事業の失敗は、人生の終わりではありません。
むしろ失敗を経験した経営者ほど、次の事業では堅実で現実的な判断ができます。
焦らず、誠実に、専門家と連携しながら再起を図ることで、
「再スタートは必ず切れる」という現実的な道が見えてきます。